「前髪の生え際、なんだか広くなった気がして」
8月の終わりになると、このご相談が必ず増えます。先週いらした50代のお客様も、鏡を見ながら「気のせいだと思っていたんですけど」とおっしゃっていました。実際に生え際を見せていただくと、確かに左のこめかみのあたりだけ、産毛が減って地肌が見えていました。
お話をうかがうと、この夏はほとんど毎日、髪を結んでいたそうです。暑いから、首元がすっきりするから、汗で肌に髪がつくのが嫌だから。理由はよくわかります。ただ、生え際が薄くなる原因として、この「毎日結ぶ」は本当に多いんです。
髪を引っ張り続けることで起きる薄毛を、牽引性脱毛症といいます。ゴムで結ぶと、その方向に毛が引っ張られ続けます。1回や2回なら問題ありません。ただ、毎日、何時間も、しかも同じ位置で引っ張られていると、毛根のまわりの血流が悪くなり、軽い炎症が起きます。すると髪が十分に育ちきらないうちに抜けてしまい、生えてくる毛も細く短いものになっていく。この繰り返しで、少しずつ地肌が透けてきます。
夏に進みやすいのには、いくつか理由があります。まず、結ぶ頻度が増えること。それから、汗で頭皮がふやけて、いつもより刺激に弱くなっていること。さらに、結んでいると分け目や生え際がむき出しになるので、紫外線を直接浴び続けることになります。引っ張る力と、汗と、紫外線。3つが重なるのが、この季節です。
40代、50代の方に特にお伝えしたいことがあります。この年代は、もともと髪が細くなり始めている時期です。女性ホルモンの働きが変わってくると、髪の一本一本が細く、コシが弱くなる。細い髪は引っ張る力に弱いので、20代のときと同じ結び方をしていても、ダメージの出方がまったく違います。「昔からずっとこの結び方なのに」とおっしゃる方が多いのですが、髪のほうが変わっているんです。
結ぶ以外にも、引っ張る力がかかっている場面があります。就寝時にお団子にしたまま寝る、編み込みやエクステを長期間つけたままにする、ヘルメットや帽子を毎日きつくかぶる。どれも同じ方向に力がかかり続けるという点では同じです。特に夜のお団子は、寝返りのたびに引っ張られるうえ、本人は眠っていて気づけないので、負担が大きいわりに見落とされがちです。
ご自分で確かめる方法があります。お風呂上がりに、生え際を鏡でよく見てください。産毛がしっかり生えているか。左右で差がないか。そして、いつも結んでいる側だけ後退していないか。牽引性の場合、片側だけ、あるいは結び目に引っ張られる方向だけが薄くなるのが特徴です。全体が均一に薄くなっているのであれば、別の原因を考えたほうがいいでしょう。
今日からできることを5つお伝えします。
・結ぶ位置を毎日変える。高い位置、低い位置、右寄り、左寄り。同じところに力をかけ続けないことがいちばん大事です
・ゴムは細いものより太いもの、シュシュやスプリングタイプを選ぶ。接する面が広いほど、力が分散します
・家にいる間はほどく。1日中結んだままにせず、頭皮を休ませる時間をつくってください
・きつく結ばない。結んだあとに額の皮膚が引っ張られる感覚があるなら、それは強すぎます
・結ぶ前に、生え際を指の腹で軽くほぐす。血流が戻りやすくなります
やめていただきたいことも、ふたつあります。
ひとつは、濡れた髪のまま結ぶこと。濡れた髪は乾いた髪よりも伸びやすく、切れやすい状態です。そのまま結んで乾かすと、引っ張られた形のまま固定されてしまいます。お風呂上がりにまとめて寝る方は、必ず乾かしてからにしてください。
もうひとつは、薄くなった生え際を隠すために、前髪を下ろして毎日ヘアアイロンやスプレーで固めること。生え際にスタイリング剤が残ると毛穴の負担になりますし、アイロンの熱が細い産毛を余計に傷めます。隠したい気持ちはよくわかるのですが、遠回りになってしまいます。
ひとつだけ、覚えておいていただきたいことがあります。牽引性脱毛症は、早い段階なら戻ります。毛根そのものが失われたわけではないので、引っ張るのをやめれば、数か月で産毛が戻ってくることがほとんどです。ただし、何年も同じ状態を続けていると、毛根が完全に働きを止めてしまい、そうなると戻りにくくなります。
「気のせいかな」と思った今が、いちばん戻しやすいときです。涼しくなってきたら、まずは家にいる時間だけでもほどいてみてください。それだけで変わる方を、私は何人も見てきました。
もうひとつ、生え際が気になり始めた方に見直していただきたいのが、シャンプーのときの触り方です。生え際は頭のなかでも特に皮膚が薄く、爪を立てて洗うと簡単に傷がつきます。指の腹で、円を描くように優しく。ここは力を入れて洗う場所ではありません。
秋の抜け毛についてはこちらの記事でもお話ししています。あわせてご覧ください。
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